12月11日(土)に開催される「テイルズ オブ リーディング ライブ ファンタジア編」。
それを記念して、キャラクターデザイン担当の藤島康介先生のインタビューを大公開! 「テイルズ オブ ファンタジア」制作当時の思い出を、たっぷりと語っていただきました!

藤島康介
シリーズでは「テイルズ オブ ファンタジア」を皮切りに、「テイルズ オブ シンフォニア」「テイルズ オブ ジ アビス」「テイルズ オブ ヴェスペリア」「テイルズ オブ ゼスティリア」など多数のキャラクターデザインを担当。漫画家としても活躍しており、代表作は「逮捕しちゃうぞ」「ああっ女神さまっ」「トップウGP」など。

「普通のファンタジー」とは一味違うファンタジーRPGを目指して

「テイルズ オブ ファンタジア」(以下、「ファンタジア」)はご自身にとってどのような作品でしょうか。

藤島僕にとっては初めてゲームのキャラクターを手掛けた作品なので、大変思い出深いです。当時はナムコの開発スタッフの皆さんがよくうちにいらしてました。わりと自由にお任せいただいた部分が多くて、そんなにダメ出しみたいなものもありませんでした。僕もそれまでに発売された「ドラゴンクエスト」などのファンタジー系RPGを遊んでいたので、自分がキャラクターデザインに関われるのはすごく嬉しかったです。ただちょっと「普通のファンタジー」からは外した方向に持っていきたいなぁと思って、デザイン的には色々と考えながらやりましたけど。

※ナムコ:旧株式会社ナムコ、現株式会社バンダイナムコエンターテインメント

SFC版「テイルズ オブ ファンタジア」プレイ画面
▲SFC版「テイルズ オブ ファンタジア」プレイ画面

そこから始まって、もう25年以上になりますね。

藤島そうですね。これからも機会があるなら、どんどんやりたいです。『テイルズ オブ』シリーズはやっぱり少し他のファンタジーゲームとも違いますからね。いろいろと細かい枝が多いというか、やり込み要素がいっぱいあって、いつまででも楽しめるゲームだと思います。

「ファンタジア」を実際にプレイされてのご感想はいかがでしたか。

藤島オープニングからしてすごかったです。当時としては珍しい、アニメの主題歌みたいなオープニングがついていたんですよね。このときには確かもう次世代機としてPlayStationが発売されていたんですけど、多分オープニング曲が入ったゲームは他にはまだなかったんじゃないかな。PlayStation版にリメイクされたときもテーマソングは入っているわ、アニメは入っているわで本当にすごかったですよね。

SFC版「テイルズ オブ ファンタジア」OP画面
▲SFC版「テイルズ オブ ファンタジア」OP画面

ゲームのお仕事に対して、当時からご興味がおありでしたか。

藤島それはもう、すごくやりたかったので、参加させていただけて嬉しかったです。ただ、「ファンタジア」の翌年には同じくキャラクターデザインを担当させていただいた「サクラ大戦」が発売されましたし、漫画の連載もあって、本当に忙しくて大変でした。ほとんど泣きながらやっていました(笑)。

ゲームの仕事と、漫画の仕事とで違うなと思ったのはどういう部分でしたか。

藤島漫画だと自分が思った絵を描けばいいんですけど、ゲームの場合は「こういう絵を描いてください」っていう土台が最初にあるので、それに合わせるのがちょっと難しいです。でも、当時のゲーム画面は2Dのドット絵でしたから、どうデザインしても大丈夫っていう自由度はありました。逆に、今の3Dのほうが難しいです。「これは表現できない」とか「こことここのパーツがぶつかるから回避しよう」といった要素がすごく多くて。「テイルズ オブ シンフォニア」くらいからだんだん難しくなってきましたね。今は3Dも非常に進化しましたが、それでもまだ難しい表現はあります。単純な決まった動きをさせるだけなら実現できるんでしょうけど、リアルタイムで戦闘やムービーシーンなどでも動かすとなると、どうしても動きがつけられない部分があるんですよね。やっぱり肩や腕のところにかかるマントや、ひらひらしたものが一番難しいみたいです。そういう意味では、「ファンタジア」がある意味一番やりやすかったです。大体何をやっても大丈夫だったので。

キャラクターたちの制作秘話

それでは、各キャラクターたちをどのように生み出していったか、うかがえますでしょうか。ますはクレスから。

藤島主人公らしいツンツン跳ねた髪にして、分かりやすくマントをつけて。とにかく主人公として立つキャラクターにしようと思って描きました。この当時は特に色合いに関する指定もなかった気がしますね。クレスの軽装鎧は、当時持っていたバイクのプロテクターとかを参考にしてデザインしました。ファンタジーなんだけど、ちょっと面白い味を出したいなぁと思って。あんまりこう、ガッツリと鎧を着こんじゃっちゃっても、まるで騎士みたいな装いになっちゃうので。彼は田舎の道場で剣術をやっている青年ということで、あまり重くなりすぎないようにしました。デザインする段階では使用武器が剣というくらいで、そこまで詳しい設定はなかったので、剣にグリップをつけるとかも全部勝手に描いちゃいました。振り回しやすいかなぁと思って。

クレス・アルベイン
▲クレス・アルベイン

次に、ミントはいかがでしょうか。

藤島基本的には看護師さんのイメージを念頭にデザインしました。なので、服が白いんですよね。髪型は、ヒロインらしいロングヘアー。設定に治癒術を使うキャラクターで、杖を使うと書いてあったので、それを元にイメージを広げていきました。それから、このときは「ああっ女神さまっ」を連載していたので、ちょっとそちらの影響もあるような気がします。このスカートは、描きながらだんだん丈を伸ばしていった気がしますね。長いほうがプリーストらしいかなと思って。多分最初のほうだと膝丈下くらいの、そのまま看護師さんみたいな感じだったと思うんですけど、あんまり看護師さんに振っちゃってもね、と思って。あとは何にも防具がないと危ないなと思って喉元だけはプレートをつけました(笑)。

ミント・アドネード
▲ミント・アドネード

チェスターはいかがでしょうか。

藤島なかなかクールな感じに仕上がってよかったかなと思います。確かクレスとは違うタイプにするように指示はあったと思うんですけど、目も細めにして、パッと見て見分けがつくよう意識しました。この弓をデザインするのが大変でしたね。ずっと大きな弓を持って歩くのも大変そうだと思ったので、折りたためないかなと思って、機構をいろいろと考えて作ってみたんですけど、引けるのかな? これ。開発側としてはもっと小さい弓を想定していたのかもしれないですね。ここまで大きくしなくてもよかったのかも。でも、これくらいのほうが遠距離攻撃しやすいかなって。あとは、さすがに矢筒を持たずに弓矢を持つのもおかしいなと思ったので、背負わせていますね。全体的に、僕としては旅をしていてもあまり無理のない感じには描いています。露出も少なめで。

チェスター・バークライト
▲チェスター・バークライト

確かに、「ファンタジア」のキャラクターはみんな、比較的旅装っぽい感じですよね。

藤島『テイルズ オブ』シリーズ全体で、僕は基本的には肌の露出は抑えめにしています。一人二人、例外はいますけど。ゲームだとほぼビキニみたいな格好で旅している人もいるんですけど、その服装のまま地面で寝るのはつらいよねとか、これで雪山いくのはどうかなとか思って。かといって、流石に旅の荷物までは背負わせていられないんですけど(笑)。

なるほど。では、アーチェはいかがでしょうか。

藤島アーチェは、もろに魔法使いにしようと思って描きました。本当はスカートを穿かせたかったんですが、スカートで飛んでいると中が見えちゃうので、下の方が広がった形のズボンにしました。空飛ぶホウキも機能面も気にして、お尻が痛くならないようにサドルを付けました。今見ても、かわいくできたかなと思います。ちょっとお腹のあたりの肌が見えているのがポイントですね。確か、アーチェに関してはクレスたちより過去の時代のキャラクターということもあって、若干違和感があったほうがいいみたいな話はあったかもしれません。あとハーフエルフで、それがあまり世間的に受け入れられていないという設定だから、耳はちょっと隠れるようになっていますね。普通なら、ハーフエルフのキャラクターを描いたときは耳がよく見えるようにするものですけど、あえて見えないようにするという。横からちらちら見えちゃうとは思うんですけどね。もうちょっと見えないようにしてもよかったのかな。

アーチェ・クライン
▲アーチェ・クライン

クラースはいかがでしょうか。

藤島めちゃくちゃ特殊なデザインにしようと思いました。全身ペイントで紋様が入っているのも特殊なんですけど、この帽子がだいぶ特徴的ですよね。鳴子をたくさんつけているという設定もなかなか難しくて、割と大変だった気がします。手足に紋様があるということを見た目で表現するためには、手足が見えないとだめなので、ズボンもちょっと短くしています。本当は、この上着もマントみたいにして、道士っぽくしてもよかったんでしょうけど、紋様を見せるとなるとなかなか難しい。それで、こういうちょっと不思議な形の上着になりました。でもこれ、よく考えるとどこかに飛んでいっちゃいますよね。大丈夫なのかな。まあクラースは術士だから、何かしているんでしょう、飛ばないように(笑)。

クラース・F・レスター
▲クラース・F・レスター

すずはいかがでしょうか。

藤島ちょっと猿飛佐助っぽいイメージです。まあ実際のところ、佐助はこんな忍者服みたいなものは着ないんですけど。これも、そのまま忍者服でも面白くないなと思って、少しずらしつつ、でもやっぱり忍者服に見えるものを目指しました。忍者ならこんな目立った黄色のマフラーなんかしないですよね。でも差し色がほしかったんです。あとは、足元が草履ではなくブーツだったり、グローブをつけてみたり。鎖帷子なんかもつけていますね。この髪型、今見るとすごい前髪だなぁ。これはひょっとすると髪型成立しないかなと思っていろいろな角度でラフも描いていました。これを今、3Dでやったら難しいだろうなぁ。でもこの髪型は面白いですよね。今の僕からこのアイディアは出ないなって思います。

藤林すず
▲藤林すず

パーティキャラクターは、主人公から順番にバランスを考えてデザインしていったのでしょうか。

藤島キャラクターを描いた順番ははっきり覚えてないんですけど、先に線画だけ上げました。色を決めるとき、クレスは鎧のせいで白の印象になっちゃったかもしれないんですけど、どちらかというと黒と茶色っぽい感じでイメージしていました。その対比で、ミントは真っ白。もうちょっとクレスを黒に振ってもよかったのかな。でもやっぱり悪役っぽく見えてしまうのは避けたかったんですよね。よく考えたら、黒と茶色じゃなくて緑でもよかったと思います。後々、薄緑とかいろいろな色を使うようになっていきますけど。シルエット的にはだいぶ差別化しているので、ドット絵でも十分キャラクターの見分けはつくかなと思います。

最近の作品だと、キャラクターの色も最初から指示がありますか。

藤島ある場合と、ない場合とありますね。ただ、髪の毛の色と瞳の色くらいはあります。とはいえ、もう描いていない色の組み合わせはそんなにないかもしれないですね……。よっぽど奇抜な髪の色にしないと(笑)。「テイルズ オブ ヴェスペリア」のユーリは、服も真っ黒で黒髪ストレートのロングっていう指示をいただいて、当時は非常に特徴的だったかと思うんですけど。最近は髪の毛の長さまで指示があるので、やっぱり「ファンタジア」が一番自由に描いていますね。

戦闘システムや演出との兼ね合いという意味での苦労も出てきますよね。

藤島そうなんですよね。それをどうやって機構的に実現すればいいのか、すごく難しいオーダーもあります。もちろん、最終的にはなんとか考えますけど。逆に言うと、僕自身からは出てこない発想を元にオーダーをいただくので、言われて初めて考えることもありますから、そこが面白いです。

モリスンはいかがでしょうか。

藤島モリスンは、美形にならないようにっていう依頼があったかどうかは覚えていないんですが、そんな話もあったような気がするんですよね。おじさんにしようっていう。なんとズボンとブーツと一体になっているという、無茶にも程があるデザインですね(笑)。ブーツを脱ぐときにはズボンも脱がないといけない。多分これは、砂漠を歩くことを想定して、砂が入りにくいようにしたかったんだと思います。まあダオスを追う旅の、過酷な環境には耐えやすいかな。その割に、腕はしっかり出ているんですよね。全部服で覆ってしまうのは抵抗があったのかもしれないですね。

トリニクス・D・モリスン
▲トリニクス・D・モリスン

最後に、ダオスはいかがでしょうか。

藤島ダオスは……自分でもこの服どうなっているのか、よくわからないんですよね。これをアニメにしたときはどうしたんだろうなぁ、全部想像で描いてくださったのかなぁ……。この腕の下がどうなっているのか、当時設定画を描いた記憶がないんです。とにかくラスボス感を出そうと思って、布の量もめちゃくちゃ多くしてみました。今見ると腰が細いですね。でも、楽しんで描きました。極悪人じゃないんだけど、威圧感があるようにしたいなと思いました。やっぱりラスボスっていうとトゲトゲしていたりとか、巨体だったりとかするキャラクターが多かったと思うんですけど、ダオスはもっと美しい感じにしたいなと。主人公側にいてもおかしくないくらいのデザインになったかと思います。

ダオス
▲ダオス

「テイルズ オブ ファンタジア」制作当時の思い出

ご自身で一番印象に残っているキャラクターは誰でしょう。

藤島うーん、アーチェかな。アーチェが一番好き放題やった気がしますからね。かわいく仕上がりましたし。オープニンブのアニメになったときも、ホウキに乗ってぶっ飛ばしていましたからね。担当声優のかないみかさんの声もすごくキャラクターにマッチしていて、素晴らしかったですね。アーチェはかないさんしかいないだろうなと思います。チェスターも、デザイン的に頑張ったから割と好きですね。

制作当時、これは大変だったという思い出はありますか。

藤島やっぱり、チェスターの弓とか、機構を考える部分が一番大変だったかな。クラースの服も、なかなかかっこよくならなくて苦労したけれども。デザインに一番時間がかかったのも、多分クラースだろうなぁ。手足を出した状態で術士に見えるようにっていうのが難しかったので。つばの広い帽子をかぶっている定があったので、露出が多くなる下とのバランスに悩みました。ラインのバランスを取るために、帽子に白い布をつけたんですよね。

当時描かれたイラストのなかで気に入っているものはありますか。

藤島パッケージ用だったので、このイラストが一番気に入っています。販促用のポスターなどの絵も発注があったので、スケジュール的にとてもきつかった覚えがあります……。「最低3人は描いてください」っていうオーダーでした。いやでも今考えると3人でよかったな、最近はパッケージ用のイラストには「全員描いてください」って言われますからね(笑)。あれ、よく見たらこれ序盤の3人じゃない! チェスター君は!? なんでチェスター君はいないのかな? よく考えたらチェスターがいてもいいのにね。

PS版・PSP版バッケージイラスト(左)と販促用ポスターイラスト(右)
▲PS版・PSP版バッケージイラスト(左)と販促用ポスターイラスト(右)

確かにそうですね(笑)。こちらの3人が空を駆けているイラストはいかがでしょう。

藤島こっちのイラストに関しては、スレイプニル(北欧神話に登場する八本足の白馬)に乗っている姿を描いてくださいというオーダーだったんですよね。でも、八本足って実はすっごく描きづらいんですよ。この角度じゃないと成立しないですね。試行錯誤してみたんですけど、八本足の馬ってどうしてもおかしな感じになってしまう。足がぶつかっちゃうので、腹の部分をほぼ全部足にするぐらいじゃないとできないんですよ。それを避けるために、関節から下だけ八本足にするとかも考えたんですけど、虫みたいな気持ち悪い感じになっちゃって……。いくら北欧神話にいるからって! あれは伝承上の生き物ですからね。なんとか美しく見せるために工夫して、頑張って描きました。

SFC版バッケージイラスト
▲SFC版バッケージイラスト

「テイルズ オブ リーディング ライブ」開催に寄せて

「ファンタジア」発売されて25年以上経った今、朗読劇として公演されることについて、どのように思いますか。

藤島まだちゃんと朗読劇ができるなんて、すごいことだと思います。朗読劇なら想像の及ぶ範囲もすごく広いし、楽しそうです。是非皆さんにも絵を見ながら聞いていただけると嬉しいですね。

今回描き下ろし用のクレスいただきましたが、久しぶりに描いていかがでしたか。

藤島難しかったですね。昔描いた絵を見返さないと描けません(笑)。こうして昔のキャラクターを見ながら、改めて描くのも面白いです。できるだけテイストを再現したいとは思って描いているんですが、ほとんど他人のキャラクターを描いているに等しい感覚です。多分いのまたさんもそうじゃないかな。ちょっと似顔絵を描いているような気持ちになって楽しいです。

描き下ろしイラスト
▲描き下ろしイラスト

最後に、「ファンタジア」のファンの皆さまに向けてメッセージをお願いします。

藤島僕にとってはみんな、一生懸命描いたキャラクターたちです。そしてどのキャラクターもみんな、大事にしてくださるファンの方がいるのは、本当にありがたいことだと思います。ファンの皆さんにとって、一番思い入れのあるキャラクターがそれぞれ違うというのは、それぞれに冒険があったんだなと感じます。とても感慨深いです。これからも『テイルズ オブ』シリーズを楽しんでいただけたら嬉しいです。