9月19日(日)に開催が迫る「テイルズ オブ リーディング ライブ デスティニー編」。
それを記念して、いのまたむつみ先生のインタビューを大公開!
「テイルズ オブ デスティニー」制作秘話を、たっぷり語ってもらいました。 

いのまたむつみ
アニメーターとして活動したのちイラストレーターに転向。シリーズでは「テイルズ オブデスティニー」を皮切りに、「テイルズ オブ エターニア」「テイルズ オブ デスティニー2」「テイルズ オブ ベルセリア」など多数のキャラクターデザインを担当。

「テイルズ オブ デスティニー」にてシリーズに参加

いのまた先生にとって「テイルズ オブ デスティニー」はどのような思い入れのある作品でしょうか?

いのまた『テイルズ オブ』シリーズで私が最初に関わった作品ですので、思い出深い、大事な作品です。じつは当時、スーパーファミコン版「テイルズ オブ ファンタジア」をいちユーザーとして遊んでいまして……そんなシリーズの次の作品に関われることになって、とても嬉しかったのを覚えています。

「テイルズ オブ ファンタジア」はどういうきっかけで手に取られたんでしょうか?

いのまたゲームショップに寄ったときに、モニターで「テイルズ オブ ファンタジア」の宣伝動画が流れているのを見たのがきっかけです。オープニングでアニメーションが流れて、しかもボーカル曲も流れるという豪華さに驚かされました。それを見ていたので、「テイルズ オブ デスティニー」の話をいただいたときは、自分のイラストがアニメーションになるのかな、とワクワクしましたね。

「テイルズ オブ デスティニー」でも、美しいオープニングアニメが付きましたが、いかがでしたか?

いのまたアニメの制作にあたって、当時の開発スタッフさんから「アニメのスタジオを紹介してくれませんか」と相談されました。じつは、そこで私からプロダクションI.Gさんを推薦させていただいたんです。依頼するときに私も一緒にI.Gさんに行ったら、「いのまたさんまで来ちゃったの!?」ってびっくりされちゃいました(笑)。最初は難しいかも……という反応だったんですが、開発チームの熱心な説明もあって、引き受けていただけることになりました。それで、最終的にできあがった映像を豊田(当時の開発プロデューサー)さんが持ってきてくれて、みんなで鑑賞したんですが、なんて表現したらいいのかしらと思うくらい素晴らしくて……! I.Gさんに引き受けていただいて本当によかったな、と思いました。

OPアニメーションカット
▲OPアニメーションカット

キャラクターが生み出されるまで

スタンたちキャラクターはどういうふうに生み出されていったんでしょう?

いのまたたしか最初に描いたのはスタンでしたね。「テイルズ オブ ファンタジア」のクレスが軽装のアーマーを着ていたので、それを踏襲してほしいというオーダーがありました。元兵士のおじいちゃんの鎧を物置から出してきて着ている、という設定をいただいて、イメージを膨らませていきました。だから、最初は鎧の細かい装飾などもなく、本当にシンプルな上半身だけの軽装鎧だったんですけど、「主人公なのでちょっと豪華にしたい」ということで、飾りを付け加えました。スタンは、当時としてはスタンダードな、真っ直ぐでわかりやすい性格をした主人公ですね。今の時代には逆に珍しいかもしれません。

クレス(左)とスタン(右)
▲クレス(左)とスタン(右)

ルーティのデザインはいかがでしたでしょうか?

いのまたルーティは、当時としては珍しいタイプのヒロインでしたね。戦闘におけるタイプも、盗賊というか、忍者というか……。なので、「お姫様」っぽい服ではなく、あくまで彼女らしい格好になるよう心がけました。個人的に好きな設定だったので、楽しく描いた記憶があります。色も、赤と黒みたいな、あまりヒロインに使われていなかった色でもOKをもらえて、わりと自由にデザインさせていただきました。本作のなかでデザインしていて、一番楽しかったキャラクターかもしれません。あとは、リオンと姉弟ですので、髪の色とか髪型の感じを似せています。

そのリオンのデザインはどうでしょうか?

いのまたリオンは戦闘のプログラムが先行して作られていまして、そのときにダミーで動かしていたドットの画像をもとにイラストを起こしていきました。ですので色味なんかは、もとになったドット絵の感じを生かしています。キャラクターとしては、ちょっとひねくれたところはありますが、お坊ちゃん的でもあるので、少しかわいらしくしたいな、と考えていました。それでドット絵を見直したら、ピンクのマントしているように見えて……本当はなんだったのか正確には分からないんですけど(笑)。それで、マントに青い服をあわせて、王子様っぽくしてみました。リオンは私も好きなキャラクターのひとりなので、「テイルズ オブ デスティニー2」でジューダスを描くことになったときには、何か禁断の扉に触れてしまうような気がしました。「テイルズ オブ デスティニー」でリオンが死んでしまったところは本当に悲しかったので、じつは生きていた……正確には生きていたわけではないんですが、再登場すると聞いたときは、いちプレイヤーとしてびっくりしましたね。ですが、実際にプレイしてみると、素敵なキャラクターになっていて、改めて好きになりました。

ルーティ(左)とリオン(右)
▲ルーティ(左)とリオン(右)

フィリア、ウッドロウはいかがですか?

いのまたメンバーにお姫様キャラみたいな女の子がいないのもあり、フィリアはちょっと女の子らしい容貌にしたいキャラクターだったんです。清楚というか、真面目というか……スカートの丈も、最初はミニだったんですが、ロングのバージョンを描いて見せたところ、「長いのにしましょう!」とすぐ決まりました。あとは、ゲーム開発側から「眼鏡のおさげにしてください」という強い要望がありまして(笑)。世界観としてレンズが存在する作品ですし、キャラクターとしても秀才っぽい雰囲気を持っているので、眼鏡自体は違和感なく描けました。ただ、小さい眼鏡だとドット絵にしたときに見えにくいので、大きい丸眼鏡にして、演出でたまに白くキランって光れば、眼鏡をしているとプレイヤーに認識してもらえるんじゃないかと思い、今の形に落ち着きました。ウッドロウは、王族であるという設定があるのと、チームのまとめ役みたいなポジションということで、ちょっと大人っぽい雰囲気にしてあります。

フィリアのラフ(左)と完成稿(中央)、ウッドロウ(右)
▲フィリアのラフ(左)と完成稿(中央)、ウッドロウ(右)

マリー、チェルシーはいかがですか?

いのまたマリーはたしか最初は斧使いでなくて、剣士でしたね。彼女はワイルドなイメージがあったので、それをデザインにも反映しました。いわゆる「女戦士」のイメージです。チェルシーは他のメンバーよりも年齢が若いこともあって、マスコット的な感じでかわいくなるといいなと思ったので、小鳥みたいなイメージで描いています。じつは、彼女の色味もインコやオウムを参考にしたんですよ。この髪の毛と、洋服のしっぽみたいな部分がそれぞれふたつずつあって、ドットで表現しにくいって言われたんですけど、最終的にはそのまま通していただけました。

マリー(左)とチェルシー(右)
▲マリー(左)とチェルシー(右)

では、ジョニー、コングマンはいかがでしょう?

いのまたジョニーは吟遊詩人なので、ちょっと他の人たちとは雰囲気が違って、不思議なイメージを出したいと思っていました。ひらひらした衣装はドットに起こすときに大変なので、これも開発からはやめてほしいと言われていたんですが……「ドットに起こすときにひらひらをなくしてしまってもいいから」とお伝えしたところ、OKをもらえました。コングマンは、最後に仕上がったキャラクターでした。デザインとしては、ベルトを付けたかったことは覚えています。ラフ自体はあまり引っかかることなく描けた気がしますね。今見てみると、『テイルズ オブ』シリーズのなかでも珍しいタイプのデザインになっていますよね。

ジョニー(左)とコングマン(右)
▲ジョニー(左)とコングマン(右)

ソーディアンのデザインはいかがでしょう?

いのまた大きさとか形状のざっくりした指定をもらって、あとはキャラクターと一緒に考えました。たとえばクレメンテは、がっしりした大剣でというオーダーがあったような気がします。アトワイトはルーティの戦闘イメージから、ナイフのような武器にデザインしました。

ソーディアン
▲ソーディアン

キャラクターのイメージカラーはどういうふうに決めていったのでしょう?

いのまた色味の指定はありませんでしたが、ドット絵になったときにも分かりやすくしてほしいというオーダーはありました。当時のゲームでは細かい色分けができなかったので、それこそ赤とか黒とか、できるだけ単純な色分けをするようにしていました。4人パーティで戦闘するときに、どのキャラクターを動かしているか分かりやすいように注意しつつ。それと、技を出すときに手の位置が分かりやすいように、手袋の色を変えたり、靴の色を変えたり、キャラクターがドットで認識しやすくなるよう、工夫を重ねました。そういう意味だと、立ち絵では装飾や微妙な色の変化をつけて凝った部分も、ドットになるとなかなか再現が難しかったみたいで。スタンのマントとか、とくに揺れ物は、修正をお願いされたこともありましたね。

「テイルズ オブ デスティニー」にまつわる思い出

一番印象に残っているキャラクターは誰でしょう?

いのまたプレイ面だとジョニーの使い勝手がよくて、印象に残っています。仲間になるのは少しあとのほうですが、回復も攻撃も、バフまでできる優秀なメンバーだったんですよ。パーティに入れるともう外せませんでした(笑)。しかも彼が使うのは術ではなく技なので、タイムラグがなく打てるのが強くて。一回は最終決戦にジョニーを入れたままクリアしましたが、やっぱり最後の戦いはソーディアンマスターでクリアしたかったので、何回もやり直しました。ソーディアンを持つメンバーのなかで、ウッドロウはストーリー上パーティから外れる期間が長いのですが、その期間の分の経験値が上積みされなくて……。合流してからそのままラストダンジョンに連れて行くと、すぐやられちゃうんです。戦闘で人数が足りないなと思ったら、すでにウッドロウがやられてたことに気付いたりして……。リオンも技がかっこいいものが多いですが、防御が弱いんですよ。あとはルーティがお金ばっかり拾っていて、ボス戦で、「今だ、みんなで畳みかけるんだ!」って思うところでもガルドを拾ってこようとするので、「えー! 何をやってるんだ!」って言いながらプレイしました(笑)。こうして振り返ると、デザインしていたときというよりは、実際に遊んだときの記憶が強いですね。

今だから話せる「大変だったなぁ」という思い出はありますか?

いのまたなんだろう……あんまりそういうのはなかったように思いますね。大らかな時代だったので、ちょっと不自然なものでも「大丈夫じゃない?」って、誰も気にしなかったんです(笑)。CDに小説にリメイクにと、かなりの点数を描かせてもらえましたが、そのなかでも最初の、オリジナルのキャラクターデザインはやっぱり思い出深いです。スタンを描いたときは、「このイラストのキャラクターを動かして遊べるんだ!」と、遊ぶ気満々で描いていて……楽しい思い出のほうが多いですね。大変な思い出というわけではないんですが、ディレクターズカット版のエンディングイラストのときは点数が膨大で、ゲーム開発側から、毎日のように催促されていました。しかも、直接受け取りにくるっていうものだから、「これは描かないわけにはいかないぞ」と、頑張ったことはいい思い出です(笑)。この作品で、仲間がみんな一緒にいる、旅の様子を描くようなカットをたくさん描けたのは、私も楽しかったですね。

エンディングイラスト
▲エンディングイラスト

当時、イラストは手彩で描かれていたのでしょうか?

いのまたそうですね、ほぼ手彩だと思います。小説の装画とか他のものは一部パソコンで描くこともありましたが。当時は手彩しか手段がなかったから、大変というふうには思いませんでしたね。手彩は今でも塗っていると楽しいんですけど、ただ絵の具を広げたり水の替えを置いたりして、紙も大きいものに描くから、物理的に場所をとるのが大変なんです。絵の具も全部は机の上に載りきらないので、床とかあちこちにちょっとずつ置いて、この色どこだっけって探したりして塗るので、すぐ疲れちゃいます(笑)。前屈みで作業することになるので、腰が痛くなっちゃうんですよ。

オンライン朗読劇開催に寄せて

オンライン朗読劇が開催されることへのご感想を伺えますか?

いのまたこれまでも「テイルズ オブ フェスティバル」や「テイルズ オブ オーケストラコンサート」など、いろいろな催しがありました。今、イベントはオンラインでの開催が多くなり、最初は実際の会場に行けないことへの戸惑いもありましたが、実際にオンライン鑑賞してみると、とても楽しくて終わりまで夢中で見ることができました。今回はオンラインでの朗読劇ということで、新しい試みに「いいな、見てみたいな」という気持ちでいっぱいです。演じるキャストの皆さんももう皆さんベテランですから、一同に集結することも、貴重な機会だと思っています。

朗読劇に期待することはありますか?

いのまたどういうところってもう、全部期待しまくりです(笑)。今回のシナリオは、本編の裏話みたいなお話だと伺っているんですが、リオン坊ちゃんがまだツンツンしているというか……本当の気持ちとしてはパーティメンバーに心を許したいけれど、それをしたら負けだ、みたいに思ってるところらしく、それを見るのも楽しみです!

今回の朗読劇のために新たにスタンを描いていただきました。

いのまた正直に話すと、不安な気持ちもありつつ描いていました。いつも当時の気持ちを思いだしながら描いているんですが、年月が経つとどうしても違和感は出てきてしまって……。描くときは設定資料を引っ張りだして確認しているんですが、資料だと分からない角度とか、知りたかったところが載ってなかったりすると、何か忘れ物があるんじゃないかな、とドキドキしながら描いています(笑)。

「テイルズ オブ リーディングライブ」描きおろしカット
▲「テイルズ オブ リーディングライブ」描きおろしカット

最後に、ファンの皆さまに向けてメッセージをお願いいたします。

いのまた朗読劇、私も本当に楽しみにしています! 『テイルズ オブ』シリーズがはじまって25年も経ちますが、今も応援してくれる人がたくさんいるのは嬉しいかぎりですね。ファンの皆さんのおかげで、私もまた『テイルズ オブ』シリーズのキャラクターたちを描かせていただけるのは、本当に素晴らしい、嬉しいことだと思っております。朗読劇も、皆さんと一緒に楽しみたいと思います。